今までおんなじ旅館に5回も泊まるなんてことは一度もなかったけど、
今回泊まってみて、あらためて思ったな。
「また来たい!」って。
僕のお気に入りになっている、この南会津の旅館のウリは、なんといっても
「専用露天風呂付きの旧い民家風はなれ」と「中華料理のフルコース」です。
でも強いて言いますよ、
「専用露天風呂だけで泊まる価値がある。」ってね。
普通のお部屋はホテル形式の洋室なんですけどね、たった5室だけ
「はなれ」があるんです。
これが広々した旧い東北の民家のつくりを再現してあってね、
居間の部屋には本物の囲炉裏があって、
火はおこしてないけど本物の自在鍵や鉄瓶、
火箸まで置かれているから、雰囲気は充分です。
見上げれば、立派な梁が通った6メーターくらいはありそうな吹き抜けの天井。
本当に広々としていて気持ちがいいの。
それでね、
お部屋の隅にある引き戸を開けると洗面所になっていて、その隣が
木製の立派な浴槽を持った内風呂があります。
さらにその内風呂の向こうには扉があってね、
ガラス越しに見えるんですよ、
眼前まで迫った深い林に突き出すように作られた、専用露天風呂が!
木製の樽風呂の底からは、透明な源泉が止め処なくゴボゴボと湧いています。
周囲の木々から漏れ落ちる秋の強い日差しが、立ちのぼる湯気を照らしています。
露天風呂への扉を開くと、軽く鼻を突くような硫黄の匂い。
両脇は御簾で目隠しされていますが、正面と真上は何もありません。
まるで森の中にいるみたい。
一歩、踏み出してみます。
手を伸ばして、お湯を触ってみます。
あ、あつい!!
源泉は60度もあるので、もったいないけどお水を入れないと入れません。
簡素な蛇口をひねると、冷たい水が勢いよくお湯の上に落ちていきます。
ちょうどいい温度になるのを見計らって、ささっと着ているものを脱ぐと、
曲げ細工の手桶でかけ湯をしました。
そして、ゆっくりと湯船に体を沈めていきます。
ざざざああぁァァ!
ふちまであったお湯が大きな音を立ててこぼれ落ちていきました。
体を駆け抜ける、軽い痺れのような感覚。
僕は大きく深呼吸をします。
森の呼吸している青い匂いと
硫黄の匂いが混ざり合って
なんともいえない、いい匂いがしました。
目を閉じます。
森の奥から聞こえて来るのは、すぐ下を流れる渓流の水音。
すぐ近くから聞こえてくるのは、キリギリスやコオロギの鳴声。
手前に聞こえるのは、湧き出す温泉が樽風呂から静かに溢れる音。
ほかには何も聞こえません。
真上を見上げると、
そこには目の覚めるような、真っ青な空。
本当に久しぶりに見た気がするなあ、こんな素晴らしい青空は。
これこそ、まさに極楽!
もう、誰かに感謝したい気持ちでいっぱいです。
夜中にも、一人で静かに湯船に浸かってみました。
わざと電気を消して、真っ暗にしてね。
すると、不思議なものが見えるんです。
目の前に広がる真っ暗な森の、真正面に覆いかぶさる木。
その枝という枝には無数の星達が煌いて、
まるでクリスマスツリーのよう。
木漏れ日って言葉があるなら、これは「木漏れ星」かな。
深夜の冷えた空気は火照った顔に気持ちいい。
絶対にまた来ようっと!
この次に来たときも、おいしい料理と極上の専用露天風呂が待っててくれる。
そう思っただけで、元気が出るくらいのお気に入りです。