退院の手続きを終え、生まれたての命を抱いて病院の駐車場に向うと、
初めての強い日差しに目をしかめています。
「これがおひさまだよ。眩しいでしょ。」
路上脇のアザミの花を小さな手に触れさせると、くすぐったいように
身体を縮ませます。
「これが、おはなだよ。くすぐったい?」
木漏れ日が穏やかに揺らぎ、そよ風が柔らかな髪の毛をなでています。
「これが、風だよ。気持ちいいでしょ。」
「なかなか出てきてくれなかったけど、外の世界っていいもんだよ。」
「おひさまも、かぜもみんな祝福してくれているでしょ。」
胸に抱いたわが子にはなしかけながら、ゆっくりと歩いていきます。
街路樹の向こうから、最近出番の少なめなローバー君が
『はじめまして!まってたよ。』
と、出迎えてくれているようです。
ドアを開ければ、バックシートには、ハナが6年前にお世話になった
チャイルドシートがちょこんとくっついています。
そこにやさしく新しい家族を乗せ、隣にはヨメサンが座りました。
「さて、じゃあ、出発するよ!」
ゆっくり慎重に走り出す、初めてのわが家までのドライブ。
6月とは思えない強い日差しがサイトウィンドウから射し込んでいます。
そしてあっという間に我が家の前。
この日のために、日ごろ掃除できないところもがんばってきれいにした
我が家に、いまヨメサンと新しい家族がドアを開け、入ろうとしています。
「おかえり。そしてようこそ!」
キッチンの横にはオムツや哺乳瓶の引き出し。
寝室には小さなフトン。
ソファに寝かされた小さな身体は、時折、小さくパタパタと手足を
動かしています。
今日から、また新しい命を育てていくんです。
さて、これから出生届を出して、ハナをお迎えに行かなきゃ。
今日は赤ちゃんが来るし、ママが帰ってくるとわかっているから、きっと
今か今かとワクワクしているでしょう。
僕は二人を家に残し、再びローバー君のエンジンを始動させました。
~続く~