保育園のとびらを開けると、いつもよりちょっと足早に廊下を歩いていきます。
「あ、おとうさん、おめでとうございます!今日退院されるんですって?」
「え、ええ。 ありがとうございます。もう家で待っているんですよ。」
「はなちゃん、楽しみにしてましたよお~。」
「そうでしょうねえ。病院では規則で、12歳未満は新生児と接触できなかったんです。」
「そうなんですかぁ!それは可愛そうでしたねえ。」
「ええ、だから僕だけ抱っこするの悪い気がして、僕も満足に抱いていなかったんですよ。」
「じゃあ、帰ってから楽しみですね!!」
「ホントですね。ハナもワクワクしてるとい思います。」
「待っててください。いま、はなちゃんを呼んで来ますから。」
・・・どうやら、先生方にも言いふらしているらしい。
まあ、嬉しいだろうな。今までガラス越しにしか会うことができなかったんだから。
ふと視線を上げると、園庭の出入り口に、泥だらけのハナが立っていました。
「はな、迎えに来たよ。ずいぶん泥だらけだねえ。
あのさ、今日はおうちに帰ると、誰が待ってるんだけ?」
「うふッ、あかちゃーーーーーん!!!」
「あたりー!」
「△★◎~~~~~!!!!」←絶叫
「よし、じゃあ早く帰ろう!」
こうして二人は手をつないで、いつもよりちょっと早足で家に向いました。
「あかちゃんさ、今日はほっぺにさわれるよ。」
「ええ~うひひひひッ!もう家にいるの?」
「もちろん、ママも一緒だよ。今ごろ、お料理作って待ってるよ。」
「あかちゃんさ、いまごろおっぱいのんでるかもよ。」
「うん、そうかも。 そうそう、赤ちゃんの名前が決まったんだよ!」
「ええ~~~~ッ!おしえておしえておしえてッ!」
「あのね・・・。」
「うんうん。」
「あのねえ~。」
「うんうん。」
「実はねえ。」
「うん、はやくおしえてよぉ!」
「え~。どうしようかな。」
「んもおおおっ!なんでよぉ~。」
「だってさ。」
「だってなによぉ。」
「もったいないんだもん!」
「いみわかんない!おしえてよぉ。」
「どうしようかなぁ。」
「おしえておしえておしえておしえて~~~~~~~~~~!!もうつかれた・・・。」
「あはははははッ、じゃあおしえてあげる。 耳かして。」
ハナはじらされまくって顔が紅潮しています。(意地悪なオヤだねえ。)
「あのね、『さえちゃん』って言うんだよ。ハナエとサエ。」
「さえちゃん!さえちゃんかぁ~ッ うふふふッ。」
「さえっていうのは、のびのび咲くって言う意味なんだよ。
ハナはいい匂いのお花って言う意味だから、二人合わせると・・・。」
「あ~~~ッわかった!おはながさくっていみなんでしょ!」
「そうなんだよ。二人とも、お花がきれいに咲く季節にうまれたからね。」
「いいねえ!さえちゃん、さえちゃん、さえちゃん・・・。」
ハナは何度も何度も口の中で名前を呟いています。
「ほら、おうちの窓を見てごらん、電気ついてるでしょ!」
「はやくいこういこう!」
「いいよ、転ばないようにね。」
はやる気持ちで駆け出すように家の扉に手をかけています。
ガチャ★
「ただいまあ~~~! ママぁ、あかちゃんのなまえ、さえちゃんでしょ!」
「おかえり~! いまソファでおねんねしてるよ。」
「どれどれどれッ」
「あっ!泥だらけじゃない。ちょっと待って。ここで服を脱いでシャワー浴びてからね。」
「ええ~ッ!ああッ、ぬげないぬげない!!!!」
慌てるあまり、凄いぬぎ方で服が身体に絡み付いています。(笑)
「ふふふ。そんなに慌てないで。はい、じゃあシャワーで洗ったら、服を着てね。」
とにかく慌てて着替え終わると、ついにリビングのソファに向います。
「さえちゃん寝てるから、そっとね。」
はやる気持ちを何とか抑えて、そおっとソファの前までたどり着きました。
「ねてるね。かわいい~!!」
「そおっと、ほっぺをさわってみれば?」
ためらいがちに、それでも我慢できずに、ハナはまだ小さな人差し指をそっと、
うまれて5日目の妹のほっぺに触れさせました。
なんともいえない嬉しそうなハナの笑顔。
両親としてもこんなに嬉しいことはありません。
こうして、晴れて4人家族になることができました。
励ましてくださった方々、本当にありがとうございました。