久しぶりに70年代音楽ネタを書いたら、久しぶりの人が帰ってきたことを知った。
SOUL MUSICを聴こうが再開したんです!
僕もSOUL MUSICは大好きですが、彼ほどの心血を注いだ愛情でこの音楽を語る
ことはできません。
だから、意識的にSOUL MUSICのレビューを避けているかもしれませんね。。
でも、再開を祝して、こんな話をしましょう。
実は前々から気になっていたSOUL BARと思しき小さな看板が近所にありました。
マンションの地下に続く小さな入り口の前に、黒人シンガーを描いたピンクの看板。
夜中になると、周囲にピンク色の明かりを漏らしながら、ひっそりと営業しているようです。
ある晩、青山のジャムセッションから自転車で帰って来たとき、そのBARの前を
通りかかると、扉が少し開いていました。
反射的に、この店へ入ってみようと思い、扉へ手をかけました。
小さなカウンター越しに、レコードが数百枚並んでいるのが見え、思わずさらに中へ
足を踏み入れようとすると、
「すみません、今夜はこれから団体が入っていて、申し訳ないけど入れないんです。」
ベースボールキャップを被った30代後半の小柄な男性が外に出てきて頭を下げました。
「え!こんな時間から団体ですか?」←午後11時30分
「そうなんです。いつもはすいていますから、よかったら、また来ていただけませんか。」
あまりに悪びれないさわやかな笑顔に、思わずこういってしまった。
「ええ、近所なんで、また来ます。」
帰り道、普通なら腹が立つはずの状況に、なぜか、また本当に行こうと強く思っている
自分が不思議でした。
数週間後、会社帰りにスーツ姿でその店の近くを取り掛かったとき、また扉が半開き
になっているのを見て、思わず覗き込んでしまった。
小さな店内には、カウンターにも、手前のテーブルにも、誰もお客がいない。
もう一歩足を踏み入れると、壁に吊られたスピーカーからはなじみの歌声が。
(おっ!ビル・ウィザーズじゃないか。 いいねえ。)
ちょっとしゃがれ気味の彼の歌声に誘い込まれるように、カウンター近くまで歩いていくと、
突然、誰もいないはずのカウンターから声がした。
「いらっしゃいませ。」
マスターはカウンターの奥にしゃがみこんでいました。
彼は立ち上がりながら、僕の顔を確認すると、
「あ、この前の方ですね。あの時はすみません。今日は見ての通りですから。」
なんと、前回はジーパンだったのに、スーツ姿の僕を見て、ちゃんと思い出してくれました。
「いいですね、ビル・ウィザーズ。」
「お好きですか?ソウル。」
「ええ、このMP3プレイヤーにも、Donny HathawayやIsley Brothersが入ってます。」
「そーですか!さあ、何かお好きなものをおかけしましょう。レコードしかありませんが。」
彼は飛び切りの笑顔で、ドリンクのオーダーをとる前に、レコードのオーダーを
取ってくれました。
「じゃあ、今日はスタックスが聴きたい感じだから、Soul Childrenなんかありますか?」
「あ、2枚ほどありますよ。ちょっとまってください。ありました、ほら。」
「へえ。2枚とも持っていないLPだから、どっちでもいいですよ。」
「わかりました、じゃあ、こっちからいきますね。」
まもなく、音溝をトレースする心地よいノイズに導かれて、乾いたタイコのフレーズが
店の中に響きます。
ジョン・ブラックフッドのハスキーでソウルフルな声が甘いメロディを歌います。
(ああ、いい感じだ。 しばらくこんな場所に来たこともなかった。)
「お飲み物、何にしますか?」
「じゃあ、何かバーボンのソーダ割を。」
最近、バーボンなんてぜんぜん飲んでないのだけれど、やっぱりメンフィスソウルを
聴くならバーボンだよね。
丸く、大きな氷がグラスに入れられ、その上からフォー・ローゼズが静かに注がれます。
その上から、ソーダ水が白い泡を立ててグラスの中で混ざり合っていきます。
最後に、マドラーで軽くグラスの氷を少し回すと、ダウンライトにきらめきながら、
そのグラスは僕の前へ。
会社の帰りでかなり疲れていたのだけれど、この状況がそれをすっかり忘れさせて
くれているようでした。
喉に心地よい炭酸の刺激を感じながら、ただ一人でこの場のこの音楽と空間を独り占め
していることが、なんとも嬉しかった。
「南部のソウルがお好きですか?」
「いえ、特にそういうわけじゃないんですけど、僕が一番すきなのは、ダニーです。」
「あー!そうですかあ。ダニー、僕も大好きですよお。ここにいっぱいありますよ。」
「ほんとだ。あ、そのライブ、LPサイズで久しぶりに見ましたよ。」
「これですか。じゃ、これをいっちゃいますか!!」
「いいですねえ。お願いします。」
まもなく、拍手に包まれながら、ワーリッァで奏でるあのイントロが聴こえてきました。
フレッド・ホワイトの軽くしなやかでグルービーなドラムが加わり、太く力強いベースの
ランニングを演奏するウィリー・ウィークス。
そして、あのやさしい、繊細で力強い歌声。
「Mother、 Mother、there's too many of you right there・・」
数え切れないくらい聴いているのに、またやられてしまった!
スーツの下に鳥肌が走るのを感じながら、グッとバーボンソーダを喉に流し込みます。
それから1時間ほど、延々とダニーをかけ続け、マスターと1対1で音楽談義が続きました。
その日はすっかりいい気分で帰宅すると、また近いうちに行こうと思うのでした。
そして、一昨日のこと、またふらっとあの店に立ち寄ってみると、
「あー!ごめんなさい!今日もこの後外人さんが団体で来るらしくて。
また今度ダニーをかけまくりますから。」
なんと、また悪びれないさわやかな笑顔で入店を断られてしまいました。
3回行って、2回も入店を断られた店。
でも、懲りずにまた行ってみようかな。